▽憎たらしき扇風機
ツクシが携帯型の扇風機を買った。
近頃店先でよく見かけるが、そういえば散歩で店を通る度にこいつは扇風機を目で追っていたな…。
まあ、炎天下のなか虫取りに行ったりすることも多いからな。熱中症対策になるのも良いことだ…。良いこと…だが。
「ふーー」
「………」
こいつは扇風機を買ってから、外だけじゃなく屋内どこでも使うようになった。
いつもなら俺が団扇で扇ぎ始めると「あっ良い風だね♪入れて〜」と笑顔で必ず俺の方へ寄ってきていたのに。
今夏、俺はこの小型機器に少々憎たらしさを覚えるのだった。
そして物に対してそんな感情を産む俺自身にも畜生…と呟いた。
「ねえハヤト君」
「…、なんだ」
その時、俺を呼んだと同時にツクシは扇風機と共に俺の傍へ来た。
「ね!涼しいでしょ?小さいから、もっと寄ってみて」
「…あ、ああ」
そう笑顔で俺の肩を引くツクシ。
そして寄り添いながら小さな扇風機の風を二人で受けた途端、憎たらしさは涼やかな風に吹かれていった。